189年の歴史があり、この場所に移転したのが1898年という書店が、今日の営業をもって閉店します。
海に近いこの町の最初の繁華街が、内陸側に離れて作られたJRのターミナル駅から隔離されてしまった結果廃れた、とか、大手チェーンの書店の進出の結果、とか、様々な説明を聞きますが、政令指定都市の一角で起きているこの現実は、ある世代のノスタルジアなどという範囲を遥かに超えて、私たち日本人に重い選択を突きつけているのだと思います。
文化を見殺しにした人間が、文明の中で見殺しにされない保障はもはやどこにもない。
地方の文化を殺すのは経済の邪悪な側面の力だけではなく、恐らくは人間の無関心でもある。そんな風に感じます。地元の文化を守り育てる使命感や愛郷心が、大手チェーンの書店にはあるとは考えられない。このような文化の喪失の意味は、とても深いと感じます。私も、この本屋の最後の時代を共に生きた他の人々も、地元に長く根ざしたこの本屋を、結局は守りも育てもしなかった。この町に今日ほど多くの人が歩いているのを、私はこの土地へ来て以来、見たことがなかった。
地方の財産はどこへ行ってしまうのか。
東京に帰っていたら、地方に起こっているこの深刻な事態に私はきっと気づけなかったと思います。
本屋の斜向かいのデパートも今年6月で撤退します。
坂道を転がり落ちる車輪を止めるのは、容易なことではないでしょう。